大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)85号 判決 1974年10月24日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取消す。大阪地方裁判所昭和四一年(ケ)第四七二号不動産競売申立事件につき、同裁判所の作成した原判決添付の各代金交付表のうち被控訴人株式会社泉州銀行に対する各競売費用の配当分を除くその余の部分を取消し、控訴人に対し競売費用に次ぐ配当順位で配当すべくこれを更正する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らはいずれも主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、すべて原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
一、次の事実はいずれも当事者間に争いがない。
(一) 被控訴人泉州銀行(以下被控訴人らについていずれも「株式会社」を省略する)は、訴外サントハムを債務者として同会社所有の本件土地及び本件建物に設定していた根抵当権に基いて、昭和四一年一〇月大阪地方裁判所に任意競売の申立をし、右事件は同裁判所昭和四一年(ケ)第四七二号不動産競売申立事件として係属した。同裁判所は右事件につき同年一一月一六日不動産競売手続開始決定をし、競売期日に右各物件を競売して最高価競買人に競落許可決定を言渡し、その後右決定は確定して競落人から競落代金が納付された。
(二) ところで、訴外サントハム及び訴外土屋快蔵は、同会社の債務を担保するため、同会社所有の本件土地建物及び訴外土屋所有の千葉の山林を共同抵当の目的として、訴外株式会社三和銀行(以下「訴外銀行」という)に対し昭和三八年一一月二〇日第一順位の根抵当権を設定した外、被控訴人泉州銀行、同安宅産業及び控訴人のため順次根抵当権を設定し、更に本件建物と千葉の山林とを共同抵当の目的として被控訴人日綿実業のため根抵当権を設定していた。
(三) 昭和四一年七月右共同抵当物件のうち千葉の山林のみが被控訴人泉州銀行の任意競売の申立により千葉地方裁判所松戸支部昭和四一年(ケ)第二五号事件において競売に付され、同年一二月五日その競落代金をもつて、訴外銀行は訴外サントハムに対する債権元利合計金三、四二二万四、六三二円の弁済を受け、被控訴人泉州銀行も第二順位の抵当権者として訴外サントハムに対する債権の一部の弁済を受けた。
(四) 右の結果、訴外土屋は訴外サントハムに対し右弁済額と同額の求償権を取得すると共に、訴外銀行の本件土地建物に対する前記第一順位の根抵当権をも取得するに至つたので、昭和四一年一二月二一日大阪法務局八尾出張所受附第三〇、四六七号をもつて根抵当権移転の附記登記をした。
控訴人は、昭和四三年二月八日訴外杉本金属株式会社が訴外土屋から譲渡を受けて附記登記をした訴外サントハムに対する前記求償債権金三、四二二万四、六三二円の内金七七〇万七、三八八円と右根抵当権の一部の譲渡を受け、同月二一日前記出張所受附第四、〇八七号をもつて右根抵当権一部移転の附記登記をしたものである。
(五) 一方、大阪地方裁判所は、(一)記載のように本件土地建物の競落代金の納付をみた後、右土地及び建物について各債権者の有する各債権に対する配当順位及び配当額を定めて、それぞれ原判決添付の代金交付表を作成した。控訴人は、昭和四五年一〇月二日の代金交付期日に右各代金交付表の被控訴人泉州銀行に対する競売費用の配当の次に控訴人が順位一番の根抵当権者として前記金七七〇万七、三八八円の債権について配当を受けるべき地位にあるものとして異議を述べたが、被控訴人らはこれを認めなかつた。
二、以上の事実によると、先ず、訴外サントハムの物上保証人であつた訴外土屋快蔵が、共同抵当の目的物の一部である同人所有の千葉の山林の競売代金で順位一番の根抵当権者である訴外銀行に弁済をしたことによつて、訴外サントハムに対しその弁済額と同額の求償権を取得し、同時に民法第五〇〇条、第五〇一条に基き右求償権の範囲において右銀行に代位して共同抵当の他の目的物である本件土地建物に対する右第一順位の根抵当権を取得したことは明らかである。
被控訴人日綿実業は、訴外土屋は訴外銀行のために千葉の山林と本件土地建物とを共同抵当の目的とする第一順位の前記根抵当権を設定した後、同じく訴外サントハムの債権者である被控訴人日綿実業に対し右山林と本件建物とを共同抵当の目的とする根抵当権を設定したのであるから、たとえ訴外土屋が前記弁済により訴外サントハムに対して求償権及び本件建物に対する第一順位の根抵当権を取得したとしても、自己の設定した後順位の根抵当権者である右被控訴人に対する関係においては、右求償権及び根抵当権を放棄したものと考えるべきであると主張するけれども、物上保証人が弁済によつて法律上当然に取得する右求償権及び抵当権について、他に特段の事情も認められないのに、自ら後順位の共同抵当権を設定したことのみを理由として、これを放棄したものと推認することは困難であるから、右主張は採用できない。
三、ところで、本件においては、いずれも訴外サントハムに対する債権の担保として、被控訴人泉州銀行、同安宅産業及び控訴人は本件土地建物及び千葉の山林を共同抵当の目的とする第二順位以下の根抵当権を有し、被控訴人日綿実業は本件建物と千葉の山林とを共同抵当の目的とする後順位の根抵当権を有するのであるが、このように、債務者所有の物件と物上保証人所有の物件とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定された場合に、先ず物上保証人所有の物件が競売に付されて一番抵当権を有する債権者に弁済がなされ、これによつて物上保証人が債務者に対する求債権を取得すると共に右債権者に代位して債務者所有の物件に対する一番抵当権を取得したときの法律関係については、直接これを律すべき民法の規定は存在しない。しかし、右の場合、後順位抵当権者は共同抵当の目的物のうち債務者所有の物件の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の物件の担保価値をもあわせて把握し得るものとして抵当権の設定を受けているのであり、一方、物上保証人においても自らの所有物件の上に設定した後順位抵当権による負担ないし損失は当初からこれを甘受することを予期していたものというべきであつて、共同抵当の目的物のうち先ず債務者所有の物件が競売され、あるいは共同抵当の目的物全部が一括して競売に付された場合には、後順位債権者が物上保証人の求償ないし代位の関係を顧慮することなく債権の満足を図り得ることとの均衡を考えても、前記の場合に、自己所有の物件が先に競売に付されたという偶然の事情によつて、物上保証人が右負担ないし損失を免れるとするのは、極めて不合理である。しかも、民法第三九二条第二項は、共同抵当の目的物を一括して競売に付するか、その一部にとどめるか、またそのうちのいずれの物件を競売するかを抵当権者の選択に委ねる反面、共同抵当の目的物の一部が競売に付されたときは、その物件上の後順位の抵当権者が残余の物件については抵当権を有しない場合においてすら、競売によつて弁済を得た共同抵当権者に代位して残余の物件に対する抵当権を行使させることにより、目的物を失つた後順位抵当権者の保護を図つているのであつて、右条項の趣旨と民法第三七二条、第三〇四条第一項が抵当不動産の滅失または毀損によつて債務者の取得すべき金銭その他の物の上にも抵当権の効力が及ぶものとしている趣旨とをあわせて推及すれば、前記の場合においては、一番抵当権自体は物上保証人に帰属し、第二順位以下の抵当権者に移転するものではないけれども、物上保証人の取得した右一番抵当権が第二順位以下の抵当権者の債権を担保するものとなり、後順位抵当権者らは物上保証人に優先してそれぞれの順位に従い右一番抵当権の上に代位するものと解するのが相当である。
従つて、本件においても、後順位の共同抵当権者である被控訴人ら及び控訴人はその順位に従い物上保証人である訴外土屋に優先して、同人が代位弁済によつて取得した前記一番抵当権に代位し得ることになるから、訴外土屋は本件土地建物の競売代金について右一番抵当権による優先弁済を主張し得ないものとしなければならない。
四、そして、右の如く訴外土屋が本件土地建物について一番抵当権による優先弁済を主張し得ない以上、同人から訴外杉本金属株式会社を経て訴外サントハムに対する求償権及び右一番抵当権の一部を譲受けた控訴人においても、訴外土屋と同様、右一番抵当権による優先弁済を主張し得ないことは当然である。
控訴人は、民法第三〇四条によつて代位するためには、「其払渡又ハ引渡前ニ差押ヲ為スコトヲ要ス」にかかわらず、被控訴人らはその手続を履践していないから同条による代位をなし得ないと主張するけれども、そもそも民法第三七二条によつて抵当権に準用される同法第三〇四条第一項は、抵当不動産に代る金銭その他の物についての代位に関する規定であつて、本件の如き権利の上への代位の場合はこれを文言通りに適用することはできない。のみならず、その趣旨を本件の場合と類推するとしても、同条が差押を代位の要件としたのは、代位の目的物を特定して維持することによりこれが債務者の一般財産に混入することを防ぎ、右一般財産に期待する債権者その他の第三者を保護するためであると解されるところ、抵当権の上への代位の場合には、不動産登記簿上に当該抵当権について代位を生ずることを第三者が知り得べき事項がすべて公示されている(本件についていえば、本件土地及び本件建物の各登記簿上に、前記一番抵当権が本件土地建物と千葉の山林とを目的とする共同抵当権であること、これに続く前記各後順位の共同根抵当権が存在すること、右一番抵当権の実行によつて千葉の山林が既に競売されていること及び右一番抵当権は右代位弁済によつて物上保証人である訴外土屋に帰属した後、順次譲渡されているものであること等が明らかにされている)のであつて、当該抵当権を譲受けようとする者は右登記簿の記載によつて後順位抵当権者の代位により当該抵当権に基いては優先弁済を受け得ないことを予知することができ、第三者に不測の損害を与えまいとする民法第三〇四条の前記目的は登記によつて達せられているのであるから、これに加えて差押を必要とする理由はなく、控訴人の前記主張は採用できない。
五、してみれば、本件土地建物の前記競売代金について控訴人が被控訴人らに優先して弁済を受けるべきであるとする控訴人の主張は理由がなく、また弁論の全趣旨によれば、本件土地建物の各競売代金額並びに被控訴人ら及び控訴人の訴外サントハムに対する前記一、(二)記載の各根抵当権の被担保債権額は原判決添付の各代金交付表記載の通りであると認められるところ、右競売代金を右各抵当権の順位に従い、かつ右債権額に応じて配当すると剰余を生ずる余地のないことは明らかであるから、右各代金交付表の更正を求める控訴人の請求は失当であつて棄却を免れない。
従つて、これと結論を同じくする原判決は相当であるから本件控訴はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。